2030 VISION Project

社員の想いが一つになった先に、
KOAの未来が見えてくる。

2019年、KOAでは経営改善活動「KPS(KOA Profit System)」の第3ステージの活動(将来のイノベーションへ向けて基盤技術をベースとしたKOA の開発力を活用して、市場・お客様に新たな価値(NewValue)を提案するビジネスモデルを創出することに注力した活動)がスタートしていたものの、10年後の未来となる2030年に向けた明確な目標や答えが示せていない状況にあった。そこでKOAは社内公募を行い、ボトムアップ型で新しいビジョンの草案を創って経営陣に提言するというプロジェクトを開始する。社員の想いを組み込みながら進められた2030ビジョンプロジェクト。その先に生まれたKOAと社員の変化を、ここで紹介したい。

プロジェクト活動期間:2019年6月~2019年12月
プロジェクト構成:公募メンバー16名、リーダー1名、事務局2名…計19名

Interview Member

※所属・役職はプロジェクト当時のもの

  • O氏

    O

    2004年入社

    用途展開センター
    (一般社員)

    新事業を開発する部署で、全社的なイノベーション活動に従事。

  • K氏

    K

    2010年入社

    知的財産センター
    (一般社員)

    開発した技術の特許出願及び権利化や特許調査・分析などを担当。

  • Y氏

    Y

    1999年入社

    経営戦略センター
    経営戦略グループ
    プロフィットマネージャー

    経営計画の立案などに従事。
    当プロジェクトのリーダーを務める。

  • U氏

    U

    2006年入社

    CSR推進センター
    (一般社員)

    気候変動対策担当として、事業成長と両立する脱炭素の取り組みを推進。

STORY 01

集まったのは
「未来のKOAをつくっていく」ことに
意欲を持った16人

2030ビジョンプロジェクトを始めるにあたり、重要になるのは参加するメンバー。全社員に対して掲示板で告知し、参加メンバーを募るところからプロジェクトは始まった。当初経営陣からは、「公募だと人が集まらないのでは?」と不安の声も上がっていたが、予想に反して50人を超える応募が集まった。参加を表明しなかった社員の中には、参加する意思はあるものの、業務が繁忙期にあり諦めた者もいたという。応募者の中から、職域の異なる20代〜40代の16人が選出され、リーダー1名、事務局2名を含めた計19人でプロジェクトは始動の時を迎えた。

実施期間は2019年の6月から12月までの約半年間。その中で2030ビジョンを経営陣に提言することがミッションである以上、現在の世界情勢やKOAの歴史と現状を知り、理解することがプロジェクト推進に必要な土台となる。そこで前半の3カ月間にメンバー全員で取り組んだのは、KOAの存在理由の意識づけだった。創業者や2代目の軌跡や思想を辿り、なぜKOAは存在するのかといった歴史認識、強み・弱みを含んだ現状把握、カーボンニュートラルやSDGsといったKOAを取り巻く世界情勢の変化など、ありとあらゆる情報のインプットを行った。

本プロジェクトのリーダーを務めるY氏は、インプットで意識したことをこのように話す。
「良質なインプットなしに、良質なアウトプットはありません。市場・先端技術・SDGsやESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance))を正しく学ぶ必要があるため、カリキュラムは事務局で用意しました。メンバーがただ教わるのではなく、主体的に学ぶ意識を持てるように3つのチームを編成し、定期的にチームメンバーを入れ替えながらグループワークを実施。メンバー同士がお互いの役割や仕事のことを深く理解できるようにしました」

グループワークを行う前は、活発な議論が行われない不安もあった、とY氏は振り返るが、その心配は無用だった。役職や職域の垣根を超えて向き合うことで、それぞれの理解を深めることができたと知的財産センターに所属するK氏は言う。
「想いが強いメンバーが集まったこともあり、時には意見がぶつかることもありました。たとえば、自分の部署では良い考え・方針であっても、他の部署では良いとは限らないということは、グループワークを通じて得た大きな気付きでした」

グループワークで様々な意見が出る中、KOAの主力製品である抵抗器をつくる意義を問う場面もあった。新事業創出を担う部署のO氏は、変えるべきものと変えてはならないものについて本質的な議論を重ねる中で、本業である抵抗器事業に対するメンバーの想いに気づくことができたと話す。
「KOAの存在意義と照らし合わせた時、次々に新事業が立ち上がった場合、抵抗器事業にこだわり続ける必要はあるのか?という問いかけをメンバーにしました。ワークショップを通じて議論を重ねるうちに、営業やモノづくりの現場で働くメンバーから『抵抗器自体がKOAのDNAだから残したい』『抵抗器は、社会にあふれる様々な製品で使われている』など、現在の事業に感じている意義や働く喜びを知ることができました」

「グローバル展開する老舗メーカー」「安定経営」と、これまで完成された企業像を持ったKOAの内部に、強い熱意を持ち、変化を望む社員がいたことと、プロジェクトを通して変わっていくであろうKOAの未来に、この時からメンバーの期待は高まっていった。

STORY 02

プロジェクトの熱量は、
社内全体へ拡大

プロジェクトは日常業務と並行して進められた。メンバーは月に2回全員が集まることに加え、業務の合間にチームごとに集まる時間も作っていたという。この他にも、社外で行うオフサイトミーティングが3回も開かれていた。
「事務局のある本社だけで取り組むのではなく、他の事業所や時には社外の施設にも行くなど、まるで学生時代の部活や合宿のような雰囲気がプロジェクトにはありました。これはビジョンを創るという重要なテーマであっても、やらされ仕事ではなく、自発的で前向きな想いで取り組めるようにしたい、という事務局の考えがあったようです。そのような狙いも奏功し、役職などの立場を超えて、お互い一人の人として語り合えました」と当時のことを、CSR推進センターに所属するU氏は振り返る。
「KOAの未来を描く」という責任の重いテーマであっても楽しみながら取り組めるようにし、離脱者を出さないことを目指す、という事務局の意図がそこにはあった。

プロジェクトの熱量は参加メンバー以外にも波及した。プロジェクト参加者を全社で募ったこともあり、その後の進捗に興味を持つ社員が現れるようになったのだ。参加メンバーは同じ部署で働く仲間からプロジェクトについて質問を受けることが多くなり、チーム内で議論された話を同僚たちに伝える機会は増えていった。だが、それだけでは参加メンバーがいない部署の社員はプロジェクトの状況を知ることができない。そこで進捗をいつでも確認できるように、社内掲示板・イントラネットへ活動報告を掲載。報告内容を見ることで、これまで取り組んできたことや次に議論されるテーマなど、プロジェクトの今とこれからをいつでも確認でき、参加せずとも理解が深められる状況が作られた。

実際に社内掲示板・イントラネットに掲載された内容から刺激を受け「自分たちも何かしなければ」「部署内のビジョンを創ろう」と、独自の活動を始める社員も少しずつ増えていったという。
「社内掲示板・イントラネットでは掲載された情報を見るだけではなく、意見も書き込めるようにしていました。色々な職域の方からの意見を参考にすることで、取り組むべきことがより明確化していったと思います」とK氏が話すように、活動報告によってメンバーの考えが深まっていったことは嬉しい副産物となった。

部署や職域によって常識だと感じることは違い、社員が望む価値観と、経営陣の目指す将来像も同じようで違う。それらの違いを当たり前として認識した上で、全社員が分かりやすいビジョンを定め、社内外に自信を持って発信できるステートメントを創り上げる。その結果、「KOAで働くことがやりがいだ」と全社員が胸を張って誇れる文化を根付かせる。インプットを重ね、異なる職域との相互理解が深まるにつれ、おぼろげながらもプロジェクトのゴール像は徐々に浮かび上がっていった。

STORY 03

社内外問わず、
KOAに関わるすべての人に
伝わることを目指して

2030ビジョンの草案はプロジェクトメンバーだけで創られたわけではない。メンバー各々が所属部署の同僚と話したり、上司や事業部の上役に意見を求めたりなど、プロジェクト外で交わす対話を重要なヒントの源泉として捉えていた。
「入社すると『KOA物語』という研修があるので、目指す方向性や理念に対する社員全体の認識はもともと高いです。ただ、認識はしていても、具体的に自身の業務とのつながりまで落とし込めている人は少ないことが課題でした」と、K氏は話す。
メンバーはそうした状況を、プロジェクトを通じて認識し、参加メンバー以外の社員と対話することで変化の切り口を探っていった。
「まずは、つくるモノやKOAが目指す未来に対してワクワクできることが社員全体に伝わるように。しかし、それだけでは足りない。ステークホルダーからも共感していただけるように、より信頼を集められるようにするためにはどうしたらよいか」と試行錯誤は繰り返された。

ビジョンの草案を創る過程でメンバーが意識した方向性は、ビジョン実現に向けて活動する各プロジェクトチームはもちろん、海外も含めたKOAグループ全社員の共通認識とし、さらにはお客様にも伝わりやすいようにすること。簡単な英単語を使い、リズム感のある表現とすることで、誰にでも覚えやすく身近なスローガンとするということだった。

プロジェクトが最終段階へ近づくにつれ、経営陣とも話し合いが行われるようになり、意見がぶつかり合うこともしばしばあった。「抵抗器業界でNo.1を目指したい」という言葉にこだわるメンバーと、それに対して「世の中にとってかけがえのない存在になるのであれば、『どこかと比べる』という考え方は本当に良いのか?」と疑問を呈する経営陣との間で、プロジェクト期間のギリギリまでせめぎ合いが続いた。議論を積み重ね、時には譲歩をしつつ、2030ビジョンスローガンは「Parts of the World」に一度決定するのだが、経営陣との協議の後に、KOAを象徴する言葉が加わったとU氏は話す。
「実は『Essential』という言葉は後で付いたんです。経営陣へ報告した際、スローガンに対して何かが足りないというフィードバックがありました。そこから再考していく過程で、KOAは海外のお客様から『モノづくりに欠かせないパーツを創るエッセンシャルパートナーだ』と、表現されていることを知りました。であれば、モノづくりにも『必要不可欠』、KOAに対しても『かけがえのない存在』と認識してもらえるように『Essential』という言葉を加えよう、と決まりました」
こうしてメンバーは経営陣と協議を重ねて2030ビジョンを完成させた。程なく社内外へ、さらには世界へ向けてKOAの新たなビジョンスローガン「Essential Parts of the World」が正式に公開された。

STORY 04

2030ビジョンの決定が、
思いがけない変化を起こす

2030ビジョンの完成後、参加した16人のメンバーたちは変化した意識や使命感を持ちつつ、それぞれの日常へと戻っていった。仕事への意義や将来の自分の姿、会社とどう並走していくかまで、たとえ違う視点であっても一つの言葉を作り上げた経験は、その後の職場での取り組みにも様々な変化をもたらした。

「今回の経験を活かして自部門のビジョンをつくろうと、同じように部内のプロジェクトを立ち上げました。40人のメンバーのうち15人が手を挙げ、現在もみんなで悩みながらも楽しく部署の方向性を定めていく活動を進めています」と、O氏は自部門の様子を話す。
O氏だけではない。K氏も「こういう人になりたい、こんなキャリアを築きたいと一緒に仕事をするメンバー同士で夢を語ることが当たり前になりました。違う志向でもビジョンがあることで集合体としてバランスが取れれば、人間力の高さを誇れる会社となれるはずです」と、期待を抱く。
また、U氏は「現KOA社員だけでなく、これからKOAに入ってくる人にも今回のような経験をしてほしい」というほど、プロジェクトに参加した意義を実感している。

KOAが世界的な抵抗器メーカーになった今、働く社員がその安定性だけを求めてしまうような状況は、社員個人や会社全体の成長の足枷となる。10年後、20年後を担う社員が多く参加したこのプロジェクトには、このような事態を打開しなくてはならないという背景もあった。ただビジョンを創造するだけにとどまらず、KOA全体に新しい視点を持たせることにもつながったと言える。

ビジョンに共感する。成長する意味を知る。それらを自分の中に落とし込み、ワクワクしながら仕事と向き合う。そんなKOAで働く喜びを感じる社員の仕事は、関わるすべての人を幸せにしていくはずだ。